大判例

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高松高等裁判所 昭和29年(ネ)65号 判決

控訴人等代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を、各求めた。

事実関係につき当事者双方の陳述したところは、控訴人等代理人において本件土地はかつて被控訴人の住職であつた訴外池田有機の個人所有であつたところ、有機の死亡と共に、その子訴外池田源吉が相続により右土地の所有権を取得し、明治二十二年七月二十七日その旨の登記手続をなした。源吉は僧籍にあらず、被控訴人の住職となつたことなく、有機の後任住職たる訴外江月模範は源吉の後見人となつたが、その後模範は右土地を源吉より代金四十五円にて買受け、明治二十三年三月十五日売買による所有権移転登記を受け、しかも当時模範は訴外品川サダと内縁関係に在りたる為、同人の住所を自己の住所として登記を受けたが、その後サダと離縁して住所に変更を生ずるや住所変更の登記手続を為している。また本件土地は所謂寺の境内(寺院を中心とし、その附属建物、寺の墓地等を含め、これを囲む土塀内)に存したものではなく、これに至る参道の両側に存したものである。なお控訴人等は被控訴人主張の松山地方裁判所昭和二十六年(ワ)第一六〇号事件の確定判決の効果として本件土地の所有権を主張するものではないと陳述し被控訴代理人において本件土地につき控訴代理人主張の日時その主張の如き所有権移転の登記の存することは争はないと陳述した外原判決摘示事実と同一であるから茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

原判決添付目録記載の土地につき当初訴外池田有機所有名義の登記が存在し明治二十二年七月二十七日訴外池田源吉の相続による所有権取得の登記、次いで明治二十三年三月十五日売買を原因とする訴外江月模範の所有権取得の登記が存すること、控訴人一精が昭和二十六年十二月二十五日松山地方裁判所の為した判決により右土地の所有権を取得したりと做し翌二十七年三月十二日その旨の登記手続を為し、更に昭和二十七年十二月二十日右土地を控訴人貞利に売渡し、昭和二十八年四月二十一日その旨の所有権移転登記手続を為したること、江月模範が大正六年一月十二日死亡し、また同人の後任住職たる訴外川崎素海は昭和十八年八月三日死亡し控訴人一精がその家督を相続したこと、松山市における特別都市区劃整理施行の結果昭和二十三年十月十二日右土地に対する換地予定地として原判決添付図面に記載せられた土地が指定されたこと控訴人貞利が右指定地に建物建築のためコンクリートの基礎工事を為したことは何れも当事者間に争がない。

被控訴人は本件土地は明治初年頃より被控訴人の境内の一部で、何れも嘗て被控訴人の住職に就任した者が住職たる資格においてたゞ名義上の所有権者として表示されていたに止り、従つて土地の占有も住職たる権限に基き被控訴人のために為したのに過ぎないので所有権は実質上被控訴人に存したものであると主張するのでこの点について判断すれば、原審証人鉄宮道範、久松順迹、西野恒次郎の各証言によつて認め得る本件土地の内六番地の二は明治四十三年頃以前、七番地の一、三は日露戦役後何れも被控訴人の墓地として使用されていた事実、当事者間に争のない大正六年一月十二日模範死亡後昭和二十六年十二月二十五日控訴人一精が所有権取得の登記手続を為すまで、本件土地の登記簿上の所有者が江口模範の儘と為されていた事実、江月模範の相続人等において模範死亡後被控訴人に対して本件土地について所有権の主張を為したることなきは勿論これについて何等の関心を示さざりし事実に原審における証人鉄宮道範、久松順迹、船田ミサヲ、萩山源之助、西野恒次郎の証言、被控訴人代表者本人尋問の結果、被告品川恒人本人尋問の結果、当審における証人品川和人の証言、証人鉄宮道範嘱託尋問の結果を綜合すれば、本件土地については前記の如く池田有機、池田源吉、江月模範の各個人名義の登記が存在し殊に江月模範は源吉より売買によつて右土地の所有権を取得した旨登記されているが、右登記は何れも真実の権利関係を反映するものではなく、本件土地の所有権は明治初年頃から終始被控訴人に属していたものと認めるのを相当とし、右認定に反する甲第一号証の十七、原審及び当審における控訴人一精本人尋問の結果は採用し難く、その他控訴人提出援用に係る全立証をもつてするも前記認定を左右するに足りない。

控訴人は控訴人一精先代川崎素海は江月模範より本件土地の遺贈を受けその所有権を取得したと主張するが、これを認むべき証拠なく、控訴人は仮に然らずとするも素海は模範死亡の時である大正六年一月十六日以降二十年間所有の意思をもつて平穏且つ公然に本件土地を占有したから時効によつてその所有権を取得したと主張するが、素海が模範の後任住職であつたことは控訴人の争はないところであるから、素海は被控訴人の住職としての権限に基き本件土地の占有を開始したものと推認するを相当とすべく斯の如き場合には権限の性質上素海に所有の意思なきものとすべく、その後同人が被控訴人に対して所有の意思あることを表示し或は新権限により更に所有の意思をもつて占有を開始するに非ざれば、その占有の性質を変ぜざるものであるから、斯の如き事実を認め得ざる本件においては、素海の占有が二十年以上に亘つたとしても取得時効の問題を生ずる余地なく控訴人の主張は採用し得ない。

従つて控訴人一精が本件土地につき取得時効完成による所有権取得の登記手続を為したとしても、右登記は無効であつて、これを前提として為された控訴人貞利への所有権移転登記手続も亦無効たるを免れない。

そして原判決添付図面記載の土地が、松山市における特別都市計劃施行の結果、本件土地の換地予定地として指定されたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証の二十一によれば右指定は昭和二十三年十月十二日附をもつて江月模範に対して為されたことが認められる。当時同人は既に死亡していたことは前記の如くであるけれども、模範の相続人等において本件土地が被控訴人の所有に属することを争はず、且前認定のとおり右模範は元被控訴人の住職であつたので登記簿上右土地は同人の所有名義となつていたに止まり真実は被控訴人の所有に属するものというべき本件においては右指定は真実の所有者たる被控訴人に対する指定として有効なるものと解すべきである。そして特別都市計劃法第十三条により換地予定地の指定を受けたるものは、同法第十四条第三項によりその使用開始の日を追つて指定する旨定められたる場合の外は、指定の通知を受けた日の翌日から換地予定地の上に従前の土地について有した権利の内容たる使用収益と同一の使用収益を為すことを得るに至ることは同法第十四条第一項により明かであつて、この権利は前記法律によつて認められた一種の公法上の権利と解すべきものであるが、従前の土地について有する権利が所有権なる場合には単に使用収益を為す権利のみならずこの権利の実現を妨害する第三者に対しこれを除去することを請求し得る所謂物上請求権と類似の権利をも取得するものといわなければならない。蓋し前記法律が換地予定地の指定により従前の土地の権利者にその使用収益を禁止し、換地予定地の上に従前の土地について有する権利の内容と同一内容の使用収益権を認める以上能うる限り右権利の内容の完全な実現を保障し被指定者が従前に比し法律上不利な地位に立つことはでき得る限り避くべきであつて、このことは被指定者が従前の土地について所有権を有する場合には指定によつて前記の如く、物上請求権に類似する権利をも取得すると解することによつてその目的を達し得るからである。従つて換地予定地の指定後第三者によつて予定地について所有権と同一内容の使用収益を妨害せられる虞が生じ、或は現に妨害が存在し無権原でこれを占有する者あるに至つた場合には被指定者は第三者に対し妨害の予防、除去、或は予定地の明渡を請求し得べきものといわなければならない。他面換地予定地の指定を受けたる者は、従前の土地につき使用収益を為し得ざるに至るに止り、その所有権をも喪うものではないから、これを争うものに対しては、その確認を求め、従前の土地に真実に合致せざる登記が存在しこれが為不利益を蒙る虞ある場合にはその抹消手続或はこれに代る登記手続を求め得ること勿論である。

然らば控訴人両名に対し原判決添付目録記載の土地につき所有権の確認を求め、控訴人貞利に対し右土地の所有権移転登記手続、原判決添付図面記載の土地に対する被控訴人の権利妨害行為の禁止及び右土地上に存するコンクリートの建築用基礎工事の撤去を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容した原判決に対して為された本件控訴は何れも理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を何れも棄却すべきものとし、控訴費用の負担について同法第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 岩口守夫)

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